1 離婚の前にやるべきこと

調停や裁判での離婚となると、離婚までには一定程度時間を要します。そうすると、事案によっては、財産分与や慰謝料などの取り決めがなされるまでの間に相手方が財産を処分してしまう危険性があり、せっかく取り決めたのに意味がない…ということになりかねません。
そのような危険性が感じられるような事案の場合、相手方が自由に財産を処分することが出来ないよう、事前になんらかの手続をしておく必要があります。

2 保全という手続

そのために用意されているのが「保全」手続です。裁判所等の機関が「現状を保ちなさい」と命令することを保全処分といい、保全処分を行ってもらうための手続を保全手続といいます。
離婚前の保全には、3種類の方法があります。

調停前の仮の処分 審判前の保全処分 民事保全手続  
申立ての時期 調停が始まるとき

(厳密には、調停委員会が独自の判断で手続を行うものであり、当事者に申立権限はありません。もっとも、調停委員会に手続を行うよう促すことができます。)
審判を申し立てるとき

(一部の事件については、調停を申し立てるときでもOK)
いつでも

(基本的には、調停が始まる前に申し立てておきます。)
申立てにあたり、
担保を立てる必要
不要 必要 (一部、不要となる場合がある。) 必要 (一部、不要となる場合がある。)
手続を進める機関 調停委員会 裁判所 裁判所
執行力(強制力) なし あり あり
備考 実務上ほとんど利用されていない。

 

以下では、基本的な手続である民事保全手続についてご紹介いたします。

3 保全手続の特徴

保全手続は、基本的に、債務者(つまり相手方)のあずかり知らないところで行うことができる点に特徴があります(これを「密行性」といいます)。
また、申立てから保全命令の発令までかかる時間を短縮できるような工夫が施されており、準備次第では数日で完了する場合もあります(これを「迅速性」といいます)。
保全手続は準備が命・スピード勝負です。相手方が財産を処分する兆候があるなど、そのような間に合わなくなる前に、ぜひ弁護士にご相談ください。

4 民事保全手続の種類

保全手続には、大きく分けて仮差押え仮処分の2種類があります。

⑴ 仮差押え

仮差押えとは、金銭債権(お金を支払ってもらう権利)を守るためのもので、債務者の財産が散逸しないようにするものです。
仮差押えの対象となる債務者の財産には、不動産、動産、債権などがあります。
たとえば、債務者が銀行預金(預金債権)を持っている場合、銀行に対し、債務者が預金を引き出せないように処理してもらうことになります。

⑵ 仮処分

仮差押えが金銭債権を守るためのものであるのに対し、仮処分は金銭以外の権利を守るためのものです。
仮処分には大きく分けて係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分とがあります。

ア 係争物に関する仮処分

たとえば、不動産を明け渡してもらう権利を守るために、相手方がその不動産を第三者に譲らないように阻止するものです。具体的には、「この不動産は現在処分が禁止されています」という趣旨の登記が付けられることになります。

イ 仮の地位を定める仮処分

裁判が終わる前に、裁判で勝った場合と同様の状態を仮に確保しようとするものです。たとえば、子の監護に関する審判事件中、妻(申立人)の生活が困窮しているため、前夫(相手方)に対し、子の養育費の仮の支払を命じるものです。

⑶ 離婚では

離婚は、財産分与や慰謝料など、お金を支払ってもらう権利にまつわる法的問題が多いので、検討すべき保全手続は、基本的に仮差押えになろうかと思います。

5 仮差押えの要件

仮差押えが認められるためには、2つの条件が揃っている必要があります。

① 金銭の支払を目的とする債権の存在

つまり、申立人が、相手方に金銭を支払ってもらう権利を持っていなければなりません。
慰謝料請求権や、財産分与請求権がこれにあたります。

② 仮差押えを行う必要性

裁判所が仮差押命令を出さないと、後で強制執行ができなくなるおそれがあったり、強制執行をするのに著しい困難が生じるおそれがある、といえなければなりません。
ケースバイケースではありますが、たとえば、相手方が自分の財産を隠したり、浪費したり、理由もないのに安価で売ったりタダで譲ったりした場合、あるいはその傾向が言動等から認定できる場合は、仮差押えを行う必要性が認められやすいでしょう。

6 よくある事例

離婚までの間、夫婦の一方が、相手の知らないうちに、自己の財産を金銭に替えて使いきってしまう事例が多くあります。

・退職金

退職金の処分は、熟年離婚を検討される方に多くみられるケースです。
妻(又は夫)のあずかり知らないうちに、夫(又は妻)が退職金の給付を受け、浪費してしまったために、本来分け合えるはずの数千万円が何も残らない状態となってしまう、ということも少なくありません。

・自宅不動産

売却したり、自宅を担保に金銭を借り入れたりして、売却金や借入金を費消されてしまうこともあります。

・株式

配当金や、株式を譲渡した場合の金銭が費消されてしまうこともあります。

・預貯金

口座内にあるうちは保全手続を行えますが、1度引き出され、これを費消されると手が打てなくなります。

・保険解約返戻金

保険契約が無断で解約され、知らないうちに返戻金の給付を受けた相手が、そのお金を浪費している場合もあります。

7 早めに弁護士にご相談ください。

「6 よくある事例」でご紹介したような財産について、相手方を見ていると私に渡すまいと今のうちに使い切ってしまおうとしている、隠そうとしている、あるいは、離婚を考えているけどそれらの財産なしには離婚後経済的に自立することはできない…とお考えの方。
離婚を考えるときにポイントとなるのは、離婚後の生活資金をいかに確保するかということです。正しいタイミングで保全を行い、きちんと財産分与を行ってもらえるかどうかが、非常に重要となります。
手遅れになる前に相談してください。早めに手を打ちましょう。

 

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