知っていますか?無戸籍問題<前編>(2024年4月~親子関係の法律が変わります)
1 はじめに
今回の動画では、戸籍にまつわる法律問題についてお話したいと思います。
皆さんは、戸籍というと、どのようなイメージがありますか?
婚姻届を出したり、パスポートを申請したり、そういった場面で手に取ることが多いのかなと思います。
この動画では、戸籍とは何か、戸籍の役割についてお話しつつ、戸籍にまつわる法律問題について、民法改正の議論にもふれながら、前編・後編に分けてご紹介したいと思います。
特に後編では、2024年4月1日~2025年3月31日の期間限定で適用される救済措置についてもご紹介するので、合わせて是非ご覧ください。
<前編>
◆戸籍とは/戸籍の役割 →2.
◆戸籍に登録されていない方がいらっしゃるという現実問題 →3.
◆戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか
(嫡出推定という民法の仕組み) →4.
◆戸籍に登録されないと、どうなるのか →5.
<後編>(予定)
◆前編のおさらい
◆約120年ぶりの民法改正(令和6年4月1日施行)
◆法改正で、嫡出推定はどうなる?
◆嫡出否認制度とは/法改正による見直し
◆【重要】無戸籍でお困りの方へ・・令和6年4月1日から1年間の救済措置について
2 戸籍とは/戸籍の役割
戸籍というのは要するに、人が生まれてから亡くなるまでの親族関係やその変動を記録し、証明する役割を持つものです。
戸籍は日本国内で編成されるものですので、その人が日本人であることを証明する唯一の資料でもあります。
婚姻届や出生届は、戸籍に記録するための届出であり、パスポートの取得・更新の際は、日本国籍であることを証明するための資料として戸籍が確認されることになります。
それから相続手続も同様です。たとえば不動産の登記を動かしたり、預金や保険金を受け取ったりする際は、その人が本当に相続人かどうかを確かめるために、法務局や銀行等から、必ず戸籍の提出が求められます。
このように、戸籍は、いざという時に必要となる極めて重要な資料ということになります。
3 無戸籍の方(戸籍に登録されていない方)がいらっしゃるという現実問題
そんな大切な戸籍ですが、実は、何らかの事情で戸籍を持っていない方が何人もいらっしゃることを、ご存知でしょうか。
そもそも戸籍がないため、正確な人数はわからないのですが、推定では1万人を下らない数の無戸籍者がいらっしゃると言われています。
4 戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか(嫡出推定という民法の仕組み)
⑴ 戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか
どうして戸籍を持たない事態が生じるのか、様々なケースがあり得るのですが、代表的なのは、その方が生まれたときに、何らかの事情で出生届が提出されなかった、というケースです。
⑵ 嫡出推定という民法の仕組み
出生届は、子が生まれた日を含めて14日以内に出さなければなりません。
出生届が提出されなければ、その子の戸籍が編成されないため、無戸籍となってしまうわけです。このような事態が生じる背景には、嫡出推定という、日本民法の仕組みが深く関わっています。
嫡出推定とは、
・婚姻中に懐妊した子ども
・婚姻の成立した日から200日を経過した日より後に生まれた子ども(下図)
・離婚後300日以内に生まれた子ども(下図)
は、夫の子どもと推定しますよ、という法律上の取り扱いのことです。
民法がこのような規定を設けている趣旨は、生まれた子の父が誰であるかを法律上早期に確定して、子の利益を図ることにあります。
※図:法務省リーフレット『無戸籍者問題解消のため 民法が変わります』より
https://www.moj.go.jp/content/001393436.pdf
⑶ 嫡出推定と出生届不提出の関係
これはあくまで一例ですが、たとえば夫AのDVから何とか逃げ出して別の場所で長年暮らしていた女性Xが、別の男性Bと知り合って、その人との間に子どもを設けた、というケースがあったとします。
この場合、先ほどの図のとおり、夫Aさんと離婚していない状況下で、Xさんが出生届を出すと、お子さんの父親は真実Bさんなのに、法律上・戸籍上の父親はAさんと取り扱われることになってしまいます。
また、Aさんが自分の戸籍を取った時に、身に覚えのない子どもが実の子として自分の戸籍に入っていることが分かってしまう、というリスクもあります。AさんのDVを理由に別居しているなら、これは母Xさんとって大きなリスクといえます。
母Xさんは、このような事態を避けるために、出生届を出せない状況に陥ってしまう、というわけです。
5 戸籍に登録されないと、どうなるのか
しかし、戸籍が無いままにしておくと、その方は、自身の婚姻届を出せない/パスポートや運転免許証を取得できない/実の両親が亡くなった場合に相続人として扱ってもらえないなど、様々な社会的不利益を被るおそれがあります。
離婚をしないまま他の男性との間に子どもをもうける、という事情の適不適はさておき、無戸籍の方が現に存在していること、そしてその方は上記のような基本的人権に関わる問題に直面していること、こういった実情そのものに焦点を当て、これを解消する方法や対策を検討するのが、無戸籍問題という法律上の課題です。
6 おわりに
以上、今回の動画では、
◆戸籍の役割 をふまえ、
◆戸籍に登録されていない方がいらっしゃるという現実問題と、
◆戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか
(嫡出推定という民法の仕組み) →4.
◆戸籍に登録されないと、どうなるのか →5.
についてお話ししました。
次回の動画では、民法の改正についてふれ、無戸籍問題についてどのような対策が講じられたのか、開設したいと思います。
<後編>(予定)
◆前編のおさらい
◆約120年ぶりの民法改正(令和6年4月1日施行)
◆法改正で、嫡出推定はどうなる?
◆嫡出否認制度とは/法改正による見直し
◆【重要】無戸籍でお困りの方へ・・令和6年4月1日から1年間の救済措置について
そして、無戸籍でお困りの方へ、もしこの動画をご覧になっていらっしゃいましたら、詳細は後半の動画で説明しますが、法改正にまつわる大事なお知らせがありますので、近くの法務局や弁護士事務所前まで、ぜひご相談にいらっしゃってください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
著者プロフィール
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属