無職になってしまったら、養育費はどうなるの?【離婚】

1 はじめに

今回の動画では、離婚後もお子さんのために養育費を支払い・受け取る関係にあるお父さん・お母さんにおかれて、何らかの理由(たとえば解雇された/病気で退職した等)でどちらかが無職になってしまった場合の影響について、支払側・受取側に分けてご説明したいと思います。

◆養育費の考え方  →2.
◆支払側が無職・無収入となってしまった場合 →3.
◆受取側が無職・無収入となってしまった場合 →4.

2 養育費の考え方

⑴ 養育費とは

養育費は、子どもの監護・教育のために必要な費用です。子どもを監護している親は養育費を受け取る権利があり、他方の親は養育費を支払う義務を負いますが、これらはいずれも子どものための権利・義務です。

⑵ 養育費の計算方法

養育費の金額は、一般的に①支払側の収入・②受取側の収入・③子どもの人数・年齢の3要素によって算出されることが多いです。
裁判所が公表している「標準算定方式・算定表」が参考になりますので、よろしければ下記リンクからご確認ください。

◼️裁判所HP「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html

今回のテーマは、上記要素のうち①②双方の収入に関わる論点ということになります。
これから、①支払側・②受領側に分けて詳しく解説していきます。

3 支払側が無職・無収入となってしまった場合

⑴ 原則:養育費の支払いは義務

先ほどご説明したとおり、支払側にとって、養育費の支払は、子どものための法的義務です。
そのため、支払側が無職・無収入となってしまった場合も、養育費の支払義務が消えることはありません。
さらに言えば、支払側が破産した場合も、養育費の支払義務は免除されずに残ることになります。

⑵ 支払側が無職・無収入となってしまった場合

 

このように、養育費は、子どものための権利・義務として強く保護されています。
そのため、支払側が無職・無収入となってしまった場合であっても、養育費の支払義務自体が消えることはありません。

とはいえ、支払側が無職・無収入になってしまった場合、これをそのまま養育費の算定方法に当てはめると、①支払側の収入=0円となり、養育費の額は0〜1万円を推移することになってしまいます。そのため、支払側は、働こうと思えば働けるのに、「働かない」という選択をした場合に、事実上支払義務を免れることができるという不都合が生じてしまいます。

判例では、このような不都合を解消し、養育費という子どもの権利を保護するために、「潜在的稼働能力」という考え方を取り入れています。
潜在的稼働能力とは、「働こうと思えば働くことができ、収入を得ることができる能力」のことをいいます。
支払側は、無職・無収入となった場合であっても、潜在的稼働能力が認められる限り、相当程度の収入が推認され、その額に基づき算定される養育費の支払義務を負い続けることになります。

⑶ 潜在的稼働能力なしor低いと認められる(無職・無収入がやむを得ないと認定される)ケース

もっとも、働きたくても働けないような次のケースの場合は、判例上、「潜在的稼働能力」が認められず、無職・無収入(支払側の収入=0円)がやむを得ないと認定されることが多いです。

① 病気・怪我・障がい等
これらの事情がある場合は、働きたくても働けないという状態であるため、無職・無収入がやむを得ないと認定される可能性があります。
もっとも、これらの事情が一時的なものである場合は、治癒して以降は潜在的稼働能力が認められることになります。

② 育児・介護などで手が離せない
健康であっても、乳幼児の育児や、親の介護などで片時も手が離せないような事情があり、かつ、そのような育児・介護を担えるのが本人しかいないような場合も、無職・無収入がやむを得ないと認定される可能性があります。

⑷ 潜在的稼働能力が認められる場合の養育費

基本的には、上記⑶のようなケースを除き、潜在的稼働能力が認められることになります。
この場合、支払側は、実際には無収入であったとしても相当程度の収入が推認され、その額に基づき算定される養育費の支払義務を負い続けることになります。
このときの“相当程度の収入”は、本人の学歴・職歴・健康状態・資格・年齢・無職無収入に至った経緯などを踏まえて推認されることになります。

4 受取側が無職・無収入となってしまった場合

 

受取側も、支払側と同様に、無職・無収入となってしまった場合であっても、潜在的稼働能力が認められる限りは、相当程度の収入が推認されることになります。

受取側が無職・無収入になってしまった場合、これをそのまま養育費の算定方法に当てはめると、算定要素の②受取側の収入=0円となり、養育費の水準が増額することになってしまいます。しかし、受取側が働こうと思えば働けるのに、「働かない」という選択をした場合にまで養育費の増額を認めると、支払側に不合理な負担をかけるという不都合が生じてしまいます。

そのため判例では、受取側にも「潜在的稼働能力」の考え方を取り入れており、働けるにも関わらず働かないような場合は、無収入(収入=0円)を前提に養育費の増額を主張することはできないとされています。

5 おわりに(減額・増額を求めたい場合の対応)

以上のとおり、養育費の支払側・受取側のどちらかが無職・無収入になってしまった場合の影響について、支払側・受取側に分けてご説明しました。
「潜在的稼働能力」が認められそうか、認められる場合に養育費がどのような金額になり得るかは、ケースバイケースです。弁護士にご相談いただければ、これらの養育費そのものに関する事項や、相手と交渉するための選択肢(協議、調停など)などについて、見通しを立てやすくなるかと思います。また、ご本人の代理人として相手の方とやりとりすることもあり得ます。
「相手から退職したので養育費を支払ないと突然言われた」「いくらが妥当な養育費なのか分からない」「相手との交渉に不安がある」といった方々は、ぜひ弁護士にご相談ください。

今回もご覧いただきありがとうございました。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属