調停で相手に住所等を知られたくない場合の対処法「当事者間秘匿制度」と「非開示希望申出」
1 はじめに
家事事件(親族(離婚など)や相続に関する訴訟・審判・調停手続など)を申し立てるにあたり、他方当事者に知られたくない情報が存在することがあります。
そして、そのような情報の載った書面や資料を、手続の中で、裁判所と他方当事者に提出しなければならない場面にぶつかる場合もあります。
この動画では、そのような場合の対処法について、令和5年2月に新設された制度も含め、大きく3種類を紹介したいと思います。
各手続はそれぞれ、要件・効果・対象事項等が異なりますので、それらを比較し選択していただけるように、今回の動画が参考になればと思います。
2 方法①マスキング
まずは、シンプルに、他方当事者に知られたくない情報がある場合、該当箇所をマスキング(黒塗り)して提出することで、その情報がそもそも書面に現れないようにする、という方法があります。
この方法は、マスキング処理をするだけですので、とても簡単です。他方で、マスキングすると、該当箇所はそもそも手続に表れてこないため、
・相手には知られたくないけど、裁判所にはどうしても読んでほしいとき
・そもそも黒塗りができないとき(氏名や住所等は、申立書等に記載する必要があります。)
などは、マスキング処理によって対応することはできません。
3 方法②非開示希望申出
⑴ 非開示希望申出とは
家庭裁判所では、事件記録(事件の中で当事者から提出された書類や裁判所が作成した書類など)については、当事者等から閲覧・謄写(コピー)を求められた場合、裁判官がこれを相当と認めて許可すれば、読んだりコピーを受け取ったりすることができるのが原則です。
非開示希望申出とは、相手方等が裁判所に対し、このように事件記録の閲覧・コピーを求められた場合に備えて、あらかじめ当事者から「相手方から閲覧等を求められても、この部分については非開示を希望します」と申し出る制度です。
⑵ 対象事項
この非開示希望申出は、方法③の秘匿制度で対象となる当事者等の氏名・住所等に加え、たとえば診断書に記載されている病院名など、開示を希望しない情報が推測されるような事項を対象とすることができます。
⑶ 非開示希望申出の機能
ただし、⑴のとおり、相手方等からの閲覧・謄写の求めに対し、これを許可するかどうか、最終的に判断するのは裁判官です。
そのため、「非開示希望申出」は、裁判所が許可の相当性を判断する際の参考となるにすぎません。つまり、申出があったとしても、必ずしも認められるとは限らず、裁判所の判断により相手方等からの閲覧等が許可されることがあります。
4 方法③当事者間秘匿制度【R5.2/20新設】
⑴ 当事者間秘匿制度とは
当事者間秘匿制度とは、家事事件において、当事者やその法定代理人(親権者など)が、他方当事者等に自らの住所や氏名等が知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるときに、所定の手続を行うことで、住所等や氏名等を秘匿する制度です。
具体的には、秘匿申立書と共に提出する「秘匿事項届出書面(※秘匿を希望する住所等を記載した書面)」について、秘匿により保護される人以外の人からの閲覧請求が制限されることになります。
一般民事事件には元々あった制度なのですが、この度の法改正により、令和5年2月20日以降、家事事件でも利用できるようになりました。これまで、家事事件では方法①②しか取り得ず、情報秘匿について強い効力をもたせる制度がなかったので、今回の制度新設は意義があるものと思います。
⑵ 要件
「当事者やその法定代理人が、他方当事者等に住所等や氏名等が知られることによって社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」が必要となります。
たとえば、DV事案・ストーカー事案など、二次的な被害が生じ得たり、当事者が畏怖・困惑したり、立ち直りに著しい困難が生じる場合などが挙げられます。
⑶ 秘匿対象事項
当事者やその法定代理人の住所等・氏名等が対象となります。
住所等・・・住所、居所、その他通常所在する場所(職場等)
氏名等・・・氏名その他その者を特定できるような事項(本籍等)
⑷ 効果
住所又は氏名につき秘匿決定がなされた場合には、⑴記載のとおり、秘匿事項届出書面対象書面について、閲覧請求が制限されることになります。そのほか、秘匿決定の中で秘匿対象者の住所や氏名に代わる事項(たとえば「代替住所A」「代替氏名A」)が定められ、その手続やその後の関連手続では、これらの代替事項を記載すれば、実際の住所又は氏名が記載されたものとみなされることになります。
5 3つの方法、どれを選べばいい?
対象事項、要件、効果等がそれぞれ異なるので、これらを比較して、どちらを利用するかを選択していただくとよいのかなと思います。
6 おわりに
以上、今回の動画では、他方当事者に知られたくない情報をいかに守るか、という対処法について、大きく3つの方法を紹介しました。
今回は各手続の方法そのものにはあまり触れていないのですが、ご不明な点等ございましたら、弁護士事務所にご相談いただければ、詳しく説明し、あるいは代理人として代わりに手続を執ることができます。
著者プロフィール
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属